リマスター技術の進歩が、深みのある作品である『ウルトラセブン』の世界をより鮮明に再現する! 進化したリマスター技術が伝える映像の魅力と意義について、ここに考察してみたい。 氷川竜介(アニメ特撮研究家)
『ウルトラセブン』がHDリマスター2.0でBlu-ray化! まさに高画質にふさわしいハイクオリティのSF特撮ドラマである。
1967年10月から約1年間(全49話)にわたりTBS系で全国放送された本作は、円谷プロダクションが『ウルトラQ』(全28話)、『ウルトラマン』(全39話)のヒットを受けて、空想特撮シリーズ第3弾としてつくりあげた総決算的な大作である。
直前にNHKで放送された英国の人形劇『サンダーバード』で登場した魅力的なメカの要素をとりいれ、「侵略宇宙人に対抗する地球防衛軍」の中でもエリート集団「ウルトラ警備隊」が怪事件の解決にあたるというのが基本的なストーリーラインだ。ウルトラセブンはM78星雲から地球に来た恒点観測員340号である。地球人の自己犠牲精神に感動して自らの意志で地球に留まり、モロボシ・ダンの姿を借りて地球防衛の仲間に加わった。
ウルトラセブンが「地球人たちと対等」というポジションをとったことが、作品の大きな魅力につながった。セブンは人間サイズを取ることが非常に多く、巨大化・ミクロ化機能を自在に使い分ける。侵略宇宙人も人間形態を離れることが多く、セブンの闘いも実に多種多様なものとして描かれる。事件は解決しても問題提起は残り続ける……そんな深いエピソードも多数存在する。
現実の多様性、複雑性を反映した作風は、ダンとアンヌの間にある淡い恋愛や、隊員との間に生まれる友愛など、感情面もリアルに浮き彫りにしている。その点でも実に魅力的な作品である。知的生命体同士なら、地球人・宇宙人の別を超えて友情も愛情も育めるはずだ――そんな可能性や希望への問いかけは、現実世界で数々の抗争や葛藤に悩まされながら生きるわれわれを、勇気づけるものではないだろうか。
娯楽作品としての『ウルトラセブン』の魅力は、格段にグレードアップしたウルトラ警備隊が使用する多彩なメカ類や装備にも結晶化している。
分離合体可能な主力戦闘機ウルトラホーク1号、宇宙空間と往復できるウルトラホーク2号、パトロールに出動するとともに重装備を運搬可能なウルトラホーク3号。航空戦力だけでも3種が配備され、それぞれ侵略者の種別や作戦行動に応じて、刻々と変化する戦闘状況に対応したメカ類は実に迫力ある活躍を見せる。
さらに地底戦車マグマライザー、主力潜水艦ハイドランジャーと環境に応じて機動性の高い戦力を展開。シークレットハイウェイから出動した万能自動車ポインターが早期偵察、初期応戦と柔軟な対応を行い、ホバークラフト走行で水上もカバーするなど、スキのない超兵器運用シーンは、ハードな物語を引き締めている。
「宇宙人の侵略」が基調のため、過去2作でメインだった「怪獣」は自然発生ではなく「侵略用の生物兵器」という役割となった。ダンがピンチのときに使う「カプセル怪獣」も「宇宙人の怪獣兵器への応戦」が生みだしたものだ。
注目すべきは、設定の強化が全体の厚みとなって「ウルトラセブンの世界観」を生みだしていることだ。これはSF映像史上、画期的な進化である。アニメや特撮が文化として定着した現在、「世界観の構築」は必須の要素となっているが、1960年代のTV作品では「キャラクターの活躍」を描くことが主流で、世界観は曖昧なケースが多かった。
空想特撮ベースの「世界観」を緻密に構築し、ストーリーに活かしてドラマに没頭させ、同時にビジュアル・デザイン面で美的な感覚を刺激する。その点で『ウルトラセブン』は歴史に残るエポックメイキングな作品なのだ。その真価は美しい高画質化により、あますところなく伝わってくるに違いない。
今回のBlu-ray化では47年前に撮影された16mmフィルム原版までさかのぼり、『ウルトラマン』同様の最新技術を駆使してHDリマスターを作成。フィルムに記録されていた情報を余すところなく取り出すことに成功した。
特筆すべきは、階調表現(色や明るさの変化のなめらかさ)が豊かになったことだ。俳優の表情変化、衣装、セットや小道具に至るまで、被写体の色彩や質感がみずみずしく迫り、スタッフ・キャストの意図を的確に伝えてくれる。
『ウルトラマン』での試行を経たことでカラーTV映画の撮影技術も非常に向上し、『セブン』ではドラマに応じたシチュエーションが非常に豊かになっている。晴天の陽光下だけでなく光量のとれないナイトシーンも非常に増加し、「ダークなムード」を醸しだしている。光の変化による「表現」によって物語の複雑性をビジュアル化して伝えているのも『セブン』の特徴だ。
また、特殊造形によるウルトラセブンや怪獣、宇宙人の色彩やディテールが明瞭となったのも、非常に嬉しい部分だ。ウルトラヒーローの目には電飾が施されているが、セブンでは透明と黄色い半透明部のツートーンのクリアバーツと反射板により、上下二灯式となった電球の光がデリケートな回り込みをしている。この表情変化に見える眼光表現も、よりよく分かるようになった。
怪獣造形では、同色のパーツでも質感が違う部分に注目だ。キングジョーの全身には金属の質感を出すためにゴールドの塗装がほどこされている。だが、肩と腰にある巨大な突起の断面や太もも部分には金属板が貼りつけられていて、よりメタリックに輝いて見えるのだ。反射光の階調表現力が向上したことで、こうした質感の差も明瞭となった。
HDリマスターにより、至るところで「ウルトラセブンの世界」が非常に近いものとして感じられるようになったのが、大きなメリットであろう。深く埋没できたその世界の奥には、さらなる多様な発見があるに違いない。
そんな『ウルトラセブン』Blu-ray BOXを、心ゆくまで楽しんでほしい。