【インタビュー】岩崎憲彦<マーブリング・ファインアーツ代表取締役> 1

 

今回は、セブン対メトロン星人の大ジオラマを制作したマーブリング・ファインアーツの岩崎憲彦さんにお話を伺いました。

 

【略歴紹介】
岩崎憲彦<マーブリング・ファインアーツ代表取締役/NORIHIKO IWASAKI>
大分県出身。1958年生まれ
「横浜放送映画専門学院」(現、日本映画大学) 在学中に、松竹映画「夜叉ケ池」(篠田正浩監督作品)に参加。初めて直にミニチュア特撮(矢島信男特技監督)に接し、感銘を受け、そこでミニチュアを制作していたマーブリングに入社。
直後、始動した「ウルトラマン80」から円谷プロダクション作品に参加。
以降、約40年、現在に至るまで、ミニチュアに関わり続けている。

Q.マーブリング・ファインアーツさんの発足からお聞かせください。

先代の高屋文治は円谷プロで特撮ステージのホリゾントの背景画を描いていました。やがて独立して看板等の製作をしていた中で、昔の仕事の縁から、円谷プロさんや東宝さんの特撮の仕事として、ミニチュアの模型を作っていく様になっていったんです。
私が伝え聞いたところでは『帰ってきたウルトラマン』の頃のミニチュアは、東宝の大工さんが手掛けていたそうですね。その後、美術製作という形で弊社が関わっていく様になり、その中の特色としてミニチュアを作る様になり、現在に至っています。
美術デザイナーの大澤哲三や木目憲吾が『ミラーマン』や『ウルトラマンレオ』にも参加していて、その意味では、ガッツリ円谷プロ作品に関わってきていると言えるでしょうか。特撮のミニチュアと言いますか、模型建造物を専門に作る会社というのは、私たちの他には無いと思います

Q.岩崎さんが特撮の現場に参加されたきっかけは、どの様なものだったのでしょう?

1979年封切りの松竹映画『夜叉ヶ池』という作品がきっかけでした。当時はまだ学生で、松竹大船撮影所で、照明器材を磨いたり運んだりするアルバイトとして入っていたんです。特撮パートの撮影には、矢島信男特撮監督率いる特撮研究所の方々が入って、美術デザイナーは、後に弊社の一員になる松原裕志が参加していました。この作品の特撮の見どころはクライマックスの大洪水のシーンで、ホリゾントの奥に巨大なタンクが2つ用意されて、そこから水を流す、いわゆる”水落とし”と呼ばれる特殊な撮影だったんですが、その水量というのが恐らく4トントラック2台分以上の凄まじいもので、水の勢いを間近に見ていて衝撃を受けました。
本当に驚きでしたね。 私も40年近く特撮の仕事をしていますが、あれほどのスケールの”水落とし”は『夜叉ヶ池』が最初で最後でした。 ところがそれ程の水量なのに排水装置は用意されていなくて、スタジオの大戸を開けて、そのまま外に流すだけなんです(笑)
今から考えると、なんともおおらかな時代でしたね。その後、試写で撮影された洪水のカットを見たのですが「これは凄い!」と。なにもかも飲みこんでしまう洪水の迫力に「こういう仕事をやりたい」と思って、そこからですね。
やがて1980年に『ウルトラマン80』が始まる訳ですが、特撮の美術チームに参加していた松原から連絡があり、ちょうど学校も卒業の時だったので「行きます!」と。それから特撮ステージが組まれていたスタジオの東宝ビルトに入って、石膏のビルを作り始めたんです。

Q.ミニチュアのビルを作っていく工夫や苦心には、どの様なものがあったのでしょうか?

『80』の美術デザイナーは山口修さんでした。私はまだ新人でしたから、ミニチュア制作のコンセプトにかかわる深いところにはいなかったんですが、特撮の美術チームでは、造形に使える素材をいろいろ調べていましたね。 例えばミニチュアのビルの窓ガラスの表現で、実際のビルの様なリアルさを出すために枠組みを付けると、どんな薄い素材でガラスを作っても強度がついてしまって割れないんですよ。ヒビが入るっていうのはありましたが、それはそれでリアルなんですけど、ヒビではあまり画面上の効果は無かった気がします。そこから砕けるガラスを表現するために飴ガラス(乱闘シーンで派手に砕け散るビール瓶の材料に使われる)を使う様になったりもしました。 また逆に、ビルのガラスが割れるシーンを撮影するための最適な素材について考える様になりましたね。

Q.やはり素材や作り方の研究というのは、欠かせないポイントでしょうか?

以前、松原と話をしている中で、どういった形で石膏のビルを作るのが効果的なのかが議論になった事がありました。彼は壁面を薄めにして、石膏もよく乾燥させて作って、乾いた壁が砕け散る様な表現をしたいと。私はしっかりとした厚めの石膏の壁面にして、少しウェットな感じを残し、崩れ落ちていく様な表現をしたいと主張して「じゃあ両方作って、どちらがリアルか判断しようよ」と。結局は両方とも”自分の方法論が正しい”という結論になるんですが(笑)
ただ、実際に怪獣が壊す場面では、火薬も仕掛けますから派手に砕け散るんです。それは私の中ではリアルではないんですが、完成作品を観ている子どもたちは派手な画作りを喜ぶという反応は感じましたね。
川北紘一特技監督の撮られた平成のゴジラシリーズでは、ビルがバーン!と砕け散る事が多かったので、川北監督は、そういう表現が好みだった様です。シリーズを通じて、ひとつの方向性としては確立したように思いますね。また、ビルが地震で崩れるのと、怪獣の体重がかかって崩れるのとでは、当然表現方法も違ってきますから、用途によって壊すビルの素材や作り方を使い分けていくのはアリだなと感じました。最近では『ウルトラマンオーブ』の劇場版で、石膏ではない材料で作ったビルを、火薬を使わずワイヤーで引っ張って壊していくというやり方にもチャレンジしています。 そんな風に、自分の感覚や考えを確かめるためにも作ってみる、研究してみるというのは必要だし、とても大事だと思っていますね。

次回は、「ミニチュア特撮かCGか」の興味深いお話をお届します。(全3回)

【インタビュー】岩崎憲彦<マーブリング・ファインアーツ代表取締役> 2

 

今回は、セブン対メトロン星人の大ジオラマを制作したマーブリング・ファインアーツの岩崎憲彦さんのお話、2回目です。

 

【略歴紹介】
岩崎憲彦<マーブリング・ファインアーツ代表取締役/NORIHIKO IWASAKI>
大分県出身。1958年生まれ
「横浜放送映画専門学院」(現、日本映画大学) 在学中に、松竹映画「夜叉ケ池」(篠田正浩監督作品)に参加。初めて直にミニチュア特撮(矢島信男特技監督)に接し、感銘を受け、そこでミニチュアを制作していたマーブリングに入社。
直後、始動した「ウルトラマン80」から円谷プロダクション作品に参加。
以降、約40年、現在に至るまで、ミニチュアに関わり続けている。

Q.特撮の現場にどんどんCGの技術が入ってきて、ミニチュア特撮の出番が減ってきているという話もありますが…?

確かにCGで何でも出来る時代になってきています。特にハリウッドのVFX映画では、既に優れた技術として完成されていると思います。 ただ、CGは計算してモニターの上で作り上げたものが全てであって、計算していない事は起きません。
一方で、私たちはミニチュアという現物をそこに置いて実在の空気感を第一に、経験値や、ある程度の予測を元に準備をして撮影しますが、往々にして経験や予測を遥かに上回る効果や迫力を生み出します。それがミニチュア特撮の強みですね。 また、CGなどのテクノロジーは日々進化していますから、逆に10年前の作品を見ると、当時は凄いCGだと思ったけど、今見ると「あれ?」と感じる事もあると思います。その意味でミニチュア特撮のノウハウというのは、円谷英二さんが特撮映画を撮られていた頃の手法と殆ど変わっていないんです。
例えば50年前の特撮映画を見て、古い映画だとは感じるかもしれませんが、崩壊するミニチュア特撮の精度がチープだという風には感じないと思います。ある意味、伝統芸能・企業秘密的なところで現在まで成り立ってきていて、最初から完成度が高かった技術なんだという言い方も出来ると思います。ところが今の若い人たちはゲーム世代なので、ゲーム世界のビジュアルに馴染んでいて、ミニチュアの質感を知らない方が多くなってきています。 今では30代位の映像クリエイターにしても、よほど強い情熱を持っていない限りは、ミニチュアを使って表現するというアイディアには行き着かないですね。 CGは予算も時間もコントロールしやすいし、監督も細かく注文出来て修整出来るメリットもありますが、撮影一発勝負の緊張感がミニチュア特撮の最高の持ち味なので、そこから生まれる唯一の完成度を、どこまで押していけるのかが、私たちの課題です。 まぁ「窓をこんな風に潰したい」とか「ビルをあんな風に崩したい」とか注文されると、我々ミニチュアを作る側は仕掛けや材質をどうするか厄介になってきますけど、でも、そういうクリエイターの方が出てきてくれると嬉しいですね。 
それにミニチュアとは言え、俯瞰で街を見るなんて事は、普通の人には出来ない体験ですから、ミニチュア特撮の経験をもっている方は、思い切って全体を引いて撮るという判断をされる事も多いですね。この感覚は実際に、いろんな映像制作の場面に生かせると思います。ミニチュアとCGが融合することにより、より良い映像が創り上げられると考えています。

Q.これからのミニチュア特撮は”適材適所”でしょうか?

ミニチュア特撮かCGかの判断は、画面上の仕上がりだけでなく、制作環境にも大きく左右されます。 私たちもノウハウの蓄積がありますから「ミニチュアでこういう事が出来ます」という提案も積極的に行っています。 また、ミニチュア作りは時間をかけた分だけ情報量が増えていきます。長年の風雪に晒された傷みとか色の褪せ方とか、店の看板やビルの屋上の貯水タンクもそうですね。情報量が増えれば、それだけ現実の存在感に近付いてきて、よりリアルに感じられる様になってきますから、そこが私たちの腕の見せ所だと思いますね。
今や映画館だけでなく、テレビも大画面化したり、4Kで高画質化してきている時代ですから、情報量の多さを武器にした駆け引きは大事だと思っています。近年では、5分の1の大スケールで古い日本家屋のミニチュアを作って、背景としての質感を的確にした上で人物を合成するなど、複合的な画面作りを成功させた事もあります。 目の肥えた方なら合成だとは気付くかもしれませんが、ミニチュアだとは恐らく気が付かないと思います。
海外のコンペティション(VES 全米視覚効果協会)でも技術的に高い評価を受けましたし、ミニチュア特撮は、これまで以上に情熱と才能が必要になってくると思います。

Q.岩崎さんは、『ウルトラマン80』の特撮美術にも参加されていたとの事ですが、子どもの頃は『ウルトラセブン』はご覧になっていたのでしょうか?

『ウルトラセブン』は丁度、小学校4年か5年位の頃、バリバリに見ていました(笑)
初代の『ウルトラマン』は、私の中では<SF作品>っていう強い印象があります。 物語がしっかりとしていて、我々が生活している世界の中で事件が起きて怪獣が現れる、という感じです。その一方で『ウルトラセブン』は、どちらかというとキャラクターの印象が強いですね。 ウルトラマンは、人間たちの繰り広げる物語の中に現れた活躍している感じがしますが、ウルトラセブンはヒーローとしての存在感がすごく強い。それなのに、お話が難しいっていうか…キャラクターの見た目は派手になって随分子ども寄りになっているのに、物語は大人寄り。 その辺の不思議さがある作品ですね。 メトロン星人のお話もそうですが、ある意味、実相寺昭雄監督の回の時が特にそうで、えもいわれぬ不思議な世界観が強く出ている気がします。

Q.『ウルトラセブン』の中で、好きなキャラクターは何でしょう?

私はナースが好きですね。『ウルトラセブン』って、怪獣より星人が主じゃないですか。
星人のデザインも、他のウルトラマンシリーズとは全然違う雰囲気がありますよね。 その中で”竜”っていう伝説の生き物をモチーフにしながら、ロボット的でメカニカルな組み合わせに意外性があって、すごく知的なデザインだなぁと思います。

 

次回は、「映像のミニチュア制作 と展示物としてのミニチュア制作」のお話をお届します。(全3回)